ホーム > 現地写真集

コロンビアのエメラルド鉱山 コスクエス鉱山2013年

朝5時頃、暗いうちに首都ボゴタ(標高2600m)を4輪駆動車で出発しました。
明るくなってきた頃には、さらに標高の高い山(標高3000m)の上を走っています。
写真では分かりにくいですが雲海が綺麗です、気温5℃以下。
ここから今度は一気に標高を下げコスクエス鉱山に向かいます。


雲と同じ高さの山間の道を駆け抜けます。
この辺りの道路は綺麗に舗装されています、ただしカーブが多いので安全運転!
と言いたいところですが早く鉱山に着いて良い原石を仕入れたいので
どうしてもハイペースになりがちです。


朝7時頃、いつも立ち寄る食堂で朝食です。
棒にぶら下がっているのは干し肉です。
朝から肉料理や脂たっぷりなスープでけっこうヘビーです。
でもこの先まともに食事が取れる場所はありませんのでしっかり食べておきます。
食べ物の写真取り忘れました・・・


トヨタ・ランドクルーザー70系。
世界中の途上国や紛争地帯などで絶大な信頼を得ている4輪駆動車です。
どんな悪路でも走破します。スピードもけっこう出ます。
こういう車でないと強盗に襲われたときに逃げることも出来ません。
行きは現金、帰りは原石を持っているわけですから。


山間の農家、オレンジを軒先にぶら下げて売っています。
昔はこの辺りの農家の主要生産物はコカインでした。
もちろん今でもコカイン畑は残っていますが、政府のプロジェクトで他の農産物に
切り替える事を農家に推奨していますので今では一般的な作物を作っています。
そういう事もあり昔に比べ治安はとても良くなっています。
私が初めて鉱山に行った1996年頃は非常に治安が悪く、怖かった思い出があります。
エスメラルデーロ(エメ屋)=コケーロ(コカイン屋)でしたから。


原住民の間で言い伝えられているエメラルドにまつわる伝説
@昔々、ムソーの地は美しい女王Furaとその夫Tenaが支配していました。
田畑には果物が豊かに実り平和な日々を過ごしていました。
ある時、金髪で青い目をした男Chisgoがこの地へやって来ました。
彼はこの豊かなムソーの地を手に入れるべく、女王Furaに求愛するそぶりを見せました。
気まぐれな心から女王FuraはChisgoの誘惑を受け入れてしまいました。
女王Furaの不貞を知った神Borburは罰として彼女を岩に変えてしまいました。


A一時の気まぐれで犯した不貞で岩に変えられてしまった妻にもかかわらず
夫Tenaは妻を愛おしく思い、せめて彼女の側で彼女を見つめていたいという思いから
自分も岩にして妻の前に置いて欲しいと神に頼みました。
自分と同じように岩にされてしまった夫Tenaを見て妻Furaは涙をこぼしました。
その涙は岩を伝って流れ落ち、涙は美しい緑色の石となって土に埋まりました。
それがエメラルドであると原住民の間で今でも言い伝えられています。
写真奥の二つの岩が妻Furaと夫Tena、「FuraTena」の岩と呼ばれています。


こちらの写真も奥に見えるのが「FuraTene」の岩です、少々雲がかかってきました。
右の写真と上の写真それぞれ3枚ともフラテナの岩を違うアングルから撮ってみました。
こちらの写真には右手に山間の村の教会も見えます。
フラテナの岩に今日一日の安全を祈願して眼下の村まで一気に下ります。





Furaの像のモチーフです

Tenaの像のモチーフです

先ほど眼下に見えた小さな村の教会です。
どんなに田舎のどんなに小さな村でも必ず村の中心に広場とカテドラルがあります。
古いものでは500年以上前の建物もあります。
中南米のカテドラルはカラフルなものが多く、つい写真を撮りたくなります。
中に入るとステンドグラスが非常に綺麗です。


標高がだいぶ下がり、だんだん湿度が高くなってきます。
舗装道路も終わり砂利道になりました。
山肌を縫うように進んでいくと、もう何年も橋脚工事を続けている場所へ来ました。
何度山肌を削って道を作ってもすぐに崩れるのでコンクリートで橋を作ることにしたのです。
コロンビア政府のプロジェクトです。


ところがこの工事現場は工事が度々中断されてきました。
その理由はなんと工事現場からエメラルドの鉱脈が見つかったからです。
ここはムソーやコスクエスまで車であと2時間もすれば着ける場所です。
エメラルドが出てきてもおかしくありません。
工事現場の「工夫」は「鉱夫」に早変わり!
工事なんてそっちのけ、一攫千金を狙って穴を掘りまくりました。
エメラルドが出たのは2012年の話です。


その騒ぎも警察が何とか治めて工事が再開されました。
今でもひそかに反対側から穴を掘り進めて鉱脈に辿り着こうとしています。
ここで取れたエメラルドはチボール鉱山産のようにクリーンで青みがかった照り石で
カルサイトインクルージョンが特徴的です。
ここで取れたエメラルドはCarreteraカレテラ(道路や車道と言う意味)と呼ばれています。




ムソーとコスクエスの分岐点を左に折れてしばらく進むとようやくコスクエス鉱山の
原石取引広場に着きました。
周囲のトタン屋根のお店では飲み物や軽食を売っていてテーブルとベンチがあり、
どこでも商談が出来るようになっています。


道中何事も無く無事朝9時前にコスクエスに着きました。
バイヤーの車が到着すると車の周りは原石ブローカー達の人だかりが出来ます。
まずは車の中から品定め。



朝の9時だと言うのにとても活気があります。
でもみんな手ぶらで仕事しているようには見えない?
原石は小さいですからジーンズのポケットに入っているのです。
他のバイヤー達も続々と到着してきます。
早く良い原石を買い付けなければ他のバイヤーに取られてしまいます。


赤い帽子の男は私の友人でバイヤーでもあります。
白いシャツの男が「いい原石持ってるから見てくれ」と声をかけてきました。
おもむろにポケットからビニール袋に入った原石を取り出し手のひらに乗せて
見せてくれます。



サイズはいいけど少々色があまいかな?
透明度は高いので値段しだいです、よし値段交渉です!
他人の商売って気になるんですねー、値段交渉していると人だかりが出来ます。
そりゃそうです、ボゴタから来たバイヤーがこの原石にいくら付けるか見物です。
他の原石ブローカーも興味津々!


ちょっと分かりにくいですがとても珍しいトラピッチェエメラルドの原石です。
中心から6条のカーボンラインが確認できます。
長さ5cm程ありますので金太郎飴のように輪切りにして5pcは取れます。
色も良く、透明度も高いです、値段も高そうだけど、よっしゃ、これも値段交渉だ!



山の天気は変わりやすいのでこんな東屋もちゃんとあります。
つい最近まで鉱山でエメラルドに携わっている男達はみなジーンズのベルトに
リボルバーを差して歩いていました(今は各鉱区の責任者のみ拳銃を所持できる法律に
変わりました)。特に1980〜90年代はいくつかの鉱山主のグループが力関係を争って
常に抗争を起こしていた時期でした。
グループ同士が激しい殺し合いの末、鉱山周辺の村々では男性の人口が
激減してしまったほどです。


早々に原石の買い付けを済ませ、友人の鉱区に産出状況を見に行きます。
先ほどの原石取引広場からさらに山を下ります。
緑が無く黒い地肌がむき出しの山肌は過去に露天掘りを行っていた場所です。
昔は盛んに露天掘りが行われておりました。現在はもう露天掘りはしていません。
もう露天掘りで採掘できる限界まで掘ってしまったと言うことでしょう。
現在はトンネル掘りでの採掘が一般的です。



露天掘りをしていた頃から私はコスクエスに通っていますが、
その頃はダイナマイトの爆発音がよくあちらこちらから聞こえました。
サイレンが鳴るとダイナマイトに点火する合図です、皆で安全な場所に走って逃げます。
ダイナマイトで高く吹き飛ばされた石が頭の上から降ってくるからです。
今はサイレンも爆発音も聞こえないので寂しく感じます。
写真左から右に向かって崖沿いに細い車道があるのが見えます。
今からそこを通ってトンネル鉱区に向かいます。


車一台がぎりぎり通れる崖を慎重に進みます、いつもは片手でハンドルを握っている彼も
この時ばかりは肩に力が入っていました。
つい最近も崖崩れが起きたばかりなので言うまでもありません。
ちょっと車を止めて上を見上げて見ましょう。





うーん、昔はこんな急斜面でエメラルドを探していたんですね。
今にも岩が落ちてきそうな斜面です。反対側は視界が開けて絶景です。


左写真の反対側、ムソーの山々が見える絶景ポイントです。
それにしても右脇のような岩が落ちてきたらひとたまりもありません。
そう、つい最近とうとう携帯電話の電波も届くようになりました。
文明の利器がこんな山奥にも!




昔、鉱夫たちは歩くかロバに乗るかしか移動手段がありませんでしたが
今ではバイクです。この20年位で本当に変わりました。
こんな山奥のエメラルド鉱山にも文明の利器が確実に届いているのです。






鉱夫たちが住んでいるバラック。
一攫千金を求めて周辺の貧しい農村から働きに来る人がほとんどです。
必ず犬を飼っています、番犬です。
鉱夫は鉱山で働いた後は必ず管理人の身体検査をパスしなければなりません。
原石を隠し持っているからです。
ある日、飼い犬をいつもお供させている鉱夫に疑いがかかりました。
犬をレントゲンにかけて見るとお腹にエメラルドが入っていました。
なんと飼い犬に毎日エメラルドを飲ませ盗み出していたのです。

ここからは徒歩です、ものすごい急斜面です。
標高がかなり低くなり蒸し暑くなってきました。


植生もバナナなど熱帯の植物が多いです。
トンネルの入り口までひたすら歩きます。


トンネルに着きました、入り口近くは石畳になっており手押し車を走らせやすく
なっています。手押し車で掘った際に出る土砂を運搬します。
使い慣れていないカメラでフラッシュの使い方が分からず今回はトンネル内の
写真がありません、すみません。




鉱山主の家でちょっと休憩、まるで山の別荘のようです。
今日の戦利品を皆で品定めです、これは安かったとか高かったとか話は尽きません。
鉱山主いわく今から20年くらい前が頂点でその後じりじりと産出が減り、
ここ10年位は本当にひどい産出状況だとの事です。
ただし「産出が多い」=「奪い合うものも多い」から治安も最も悪かった、
「今は儲からないけど平和だ」と呟いた彼の言葉は重みがありました。

この山奥で一攫千金を夢見てエスメラルデーロとして頂点を極め生き残った
この鉱山主に昔のような鋭い顔つきはもうありません、時代は変わっているのです。


帰途、またフラテナの岩が見える場所にさしかかりました。
私は胸の中で叫びました「女王Furaよ貴女の涙はもう涸れてしまったのか?」

                                                   このページのトップへ